研究紹介 研究紹介
Research

研究紹介

膠原病班の研究

HTLV-1とシェーグレン症候群

自己免疫疾患の環境因子としてウイルス感染が挙げられますが、1)ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type1)とシェーグレン症候群(以下SS)には疫学的な関連がありSSにおけるHTLV-1感染のオッズ比が3.1と高いこと(Terada K, et al. Lancet 344;1116-9, 1994)、2)抗HTLV-1抗体陽性SSではぶどう膜炎や筋炎などの腺外症状が多いこと(Eguchi K, et al. Arthritis Rheum 39;463-7, 1996)、3)HTLV-1関連脊髄症(HAM)には高率にSSが合併すること(Nakamura H, et al. Ann Rheum Dis 56;167-72, 1997)を前任地で報告してきました。病態としては、HTLV-1ウイルス粒子がSS患者唾液腺上皮細胞へマトリックス・リンカー蛋白からなるbiofilmを用いて移行すること(Nakamura H et al, Virus Res, 269; 197643, 2019)、唾液腺上皮細胞へHTLV-1が感染でき、かつ炎症・接着・遊走能の亢進を惹起すること(Nakamura H et al, Arthritis Rheumatol, 67; 1096-107, 2015)、HAMに合併したSS唾液腺では浸潤単核球だけではなく導管にもHTLV-1 tax/HBZ遺伝子が発現していること(Nakamura H et al, Clin Exp Rheumatol, 112; 51-60, 2018)を示しました。またHAMに合併したSSでは抗Ro/SS-A抗体出現頻度が少ないことがわかっていますが、この結果に抗HTLV-1抗体陽性SS唾液腺では自己抗体産生に重要な異所性二次濾胞や胚中心の出現頻度が少なく、特にHAMに合併したSSではその傾向が顕著であること(Nakamura H et al. Rheumatology (Oxford) 48:854-5, 2009)を報告しました。さらに、二次濾胞内でB細胞のホーミングや高親和性B細胞選択に重要なCXCL13あるいはBAFFなどの分泌を行う濾胞性樹状細胞の働きに注目しました。ヒト扁桃より濾胞性樹状細胞を樹立してHTLV-1感染細胞株と共培養を行うと、濾胞性細胞質内や細胞から分泌されるBAFFが抑制されることが明らかとなり、少なくとも濾胞性細胞質内や細胞のBAFFを抑制して自己抗体産生経路の上流をHTLV-1が抑制する可能性を始めて明らかとしました(Takatani A & Nakamura H et al. Immun Inflamm Dis 9:777-9, 2021)。これらの知見に基づき、今後は当科におきまして以下の様な検討を予定しています。1)HTLV-1がSSにおける抗Ro/SS-A抗体など自己抗体産生機能を直接的に制御することが可能であるか研究継続してゆきます。2)HTLV-1が感染したSS唾液腺においては、持続炎症が起こっているにもかかわらず、本来制御性であるFoxp3発現が亢進していることも明らかとしたため、HTLV-1によるSS唾液腺炎におけるFoxp3の関与についても検討する予定です。3)また、HTLV-1などのRNAウイルスとtoll-like receptor(TLR)との関連から、HTLV-1感染がTLRを利用してI型インターフェロン産生など自然免疫の活性化に関わっているのかも検討する予定です。これらの検討により、HTLV-1関連疾患としてSSが認識されうるか解明します。(中村 英樹)

シェーグレン症候群と自然免疫

SSの発症機序は古くからmajor histocompatibility complex (MHC) class IIによる特異抗原認識を介する獲得免疫主体であり、これによりTh1/Th2/TfhなどのヘルパーT細胞の活性化や二次濾胞内でのB細胞成熟や形質細胞分化が起こると考えられてきました。一方近年では、SSの病態には自然免疫系が深く関与しており、微生物の核酸を認識するTLRがその受容体を担っているという知見が明らかとなりつつあります。私たちはSS唾液腺の浸潤単核球や導管上皮にはTLR7が優位に発現していることを示しました(Shimizu T et al. Clin Exp Immunol.196:39-51, 2019)。また、TLR7発現浸潤細胞はB細胞や形質細胞様樹状細胞(pDC)が優位であり、唾液腺内のpDCではmyeloid differentiation factor: MyD88以下のTLR7シグナルが発現していることやTLR7リガンドで刺激したSS患者さん末梢血のpDCにはインターフェロン(IFN)αが有意に増加することを示しました。さらに導管上皮細胞のTLR7リガンド刺激によるMyD88下流のinterferon regulatory factor (IRF)の核内移行を確認しました。これらの結果から、SS病態形成にはTLR7-I型IFN経路が関わっていることが示唆されました。一方、SS唾液腺上皮細胞をTLR7リガンドで刺激するとMHC class IとともにRo52/SS-A抗原発現が増大することも明らかとしました。このことは、MHC class IによるRo52/SS-A抗原提示が進んでいる可能性を示唆しましたが、実際にTLR7リガンドで刺激した唾液腺上皮細胞ではMHC class IとRo52/SS-A蛋白が会合することが明らかとなり、SS唾液腺では様々な程度のユビキチン化が起こっていることや、抗原提示に必要な細胞質内でのpeptide-loading complex (PLC)形成がSSで有意に増加していることを明らかとしました(Nishihata S et al. J Clin Med.12:4433, 2023)。また培養唾液腺上皮細胞質内ではTLR7刺激によりPLC形成が亢進することも確認しました。これらはSSの自然免疫系活性化経路におけるTLR7の新たな役割であると注目しています。他のTLRであるTLR3リガンド刺激では、唾液腺上皮細胞にアポトーシスが誘導される(Horai Y et al. Mod Rheumatol.26:99-104, 2016)という面も検討し、TLRの種類によりSSの病態への関与の仕方も異なることを明らかとしています。このような観点から、SSにおけるTLRを中心とした自然免疫系の関与を発展させる予定です。(中村 英樹)

EBVと関節リウマチ

Epstein-Barr-virus(EBV)も関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)の環境要因として古くから関与が示唆されています。1)RA末梢血中にEBV感染細胞核成分に対する抗体が発見されたことにはじまり(Alspaugh MA, et al. J Exp Med 147;1018, 1978)、2)RA滑膜にEBVの存在が示され(Takei M, et al. Int Immunol 9;739,1983)、3)エンベロープ蛋白であるEBV gp110とShared epitopeアリルQKRAA配列とに相同性があること(Toussirot E, et al. Arthritis Res Ther 5;S25, 2003)、4)抗CCP抗体がシトルリン化EBNA-1, 2ペプチドを認識すること(Pratesi F, et al. Arthritis Rheum 54;733, 2003. Pratesi F, et al. Clin Exp Immunol 164;559, 2011)、RA末梢血T細胞ではEBV感染制御遺伝子であるSAP(signaling lymphocytic activation molecule-assosiated protein)遺伝子のmRNAが低下していること(Takei M, et al. Int Immunol 13;559, 2001)、などが示されています。本来EBVはヒト以外には新世界猿にしか感染が成立しませんが、当科ではヒト免疫化マウスを用いて研究を行い、EBV感染によってびらん性関節炎が発症することを報告しています(Kuwana Y, Takei M, et al. PLoS One 6;e26630, 2011)。このマウスに発症する関節炎は、滑膜の増殖やパンヌス形成による骨破壊といったRAに酷似した特徴を有しています。増殖した滑膜や関節炎近傍の骨髄にはTリンパ球やBリンパ球などのヒト細胞が浸潤しており、EBV感染細胞も確認されます。最近、関節炎局所で異常活性化し、骨びらんを形成している破骨細胞がヒト由来の細胞であることわかり(Nagasawa Y, Takei M, et al. PLoS One 16;e0249340, 2021)、現在はこのようなヒト破骨細胞異常活性化機序の解明を目指して主に研究を行っています。(長澤 洋介)

抗セントロメア抗体とシェーグレン症候群

抗セントロメア抗体は全身性強皮症の自己抗体として知られていますが、原発性胆汁性胆管炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの他の自己免疫疾患でも認められます。シェーグレン症候群の自己抗体として抗Ro/SS-A抗体がよく知られておりますが、近年、抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群が認識されるようになりました。抗セントロメア抗体陽性患者の3割ほどにシェーグレン症候群を認めることがわかっています(Int J Rheum Dis. 2019;22:103)。発症時に抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群と全身性強皮症の両方の診断となることはありますが、シェーグレン症候群と診断されたのちに全身性強皮症と変化する可能性は高くありません。全身性強皮症の診断がない抗セントロメア抗体陽性のシェーグレン症候群では、全身性強皮症によく認められるレイノー現象が認められる一方、乾燥症状以外の症状である腺外症状が少ない傾向にありました(Rheumatol Ther. 2018;5:499)。抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群では、抗Ro/SS-A抗体陽性シェーグレン症候群と比べて、唾液腺などの組織の破壊が進行していることがわかっています(Int J Rheum Dis. 2020;23:1024)。シェーグレン症候群自体、発症の機序は未だわかっていません。抗セントロメア抗体陽性と抗Ro/SS-A抗体陽性との違いを切り口に、抗セントロメア抗体陽性シェーグレン症候群の病態解明を目指しています。(塚本 昌子)

Fc gamma 受容体と自己免疫疾患、動脈硬化

自己免疫疾患は、自己抗原に反応する多彩な自己抗体の産生と免疫複合体の沈着により全身の諸臓器を障害する原因不明の自己免疫疾患です。免疫抑制療法が確立してからは、心血管疾患が生命予後規定因子になっています。自己免疫疾患が、合併症としての動脈硬化を促進するとされ、特に全身性エリテマトーデスに罹患した若年女性においては、健常の同年代の女性と比較して心血管疾患のリスクが高いと報告されております。予後改善には全身性エリテマトーデスの病状のコントロールともに心血管疾患のコントロールも重要です。Fc gamma 受容体は、抗原と複合体を形成した免疫グロブリンIgG(自己抗体)と結合し、活性型または抑制型のシグナルを細胞内に伝達します。CD16はFc gamma 受容体の1つで、活性型シグナルを細胞内に伝達します。CD14brightCD16+単球は炎症性細胞と考えられ、心筋梗塞、動脈硬化など冠動脈疾患患者において増加しますが、関節リウマチ患者においても増加を認め、病気の活動性とともに変動しています(Arthritis Res Ther. 2017;19:28、Clin Exp Rheumatol. 2018;36:540)。ヒト検体とマウスを用いた臨床的実験から、自己免疫疾患の自己抗体がマクロファージ、好中球、T細胞の活性化と相互作用を惹起して動脈硬化を促進する現象を認めました。またFc gamma受容体を自己抗体と抗原で形成された免疫複合体で刺激することで、動脈硬化が促進されます。自己免疫疾患において免疫複合体とFc gamma 受容体の機能に注目し、免疫複合体のFc gamma受容体への結合によりマクロファージの活性化、泡沫細胞への分化が誘導されることにより動脈硬化が促進されると考え、Fc gamma 受容体による動脈硬化発症の機序の解明と自己免疫疾患および動脈硬化の新たな治療法の創出を目指しています。(塚本 昌子)

血液班の研究

1.リンパ腫

1) 予後不良なリンパ腫に対して強力化学療法と自家造血幹細胞移植を行って予後の改善を目指しています。Double hit/expressor、T細胞リンパ腫はこれらの治療でも不十分でしたので、さらなる治療研究が必要と考えております(三浦、髙橋)。
2) 血管内リンパ腫のタンパク発現と予後との関連を解析しました。
3) リンパ腫と微小環境と臨床像、予後などの解析を行っています。

2.骨髄腫

1) 臨床研究では表面マーカー、分化度と新規治療薬の予後を解析しました。CD45+骨髄腫はボルテゾミブ治療群で予後良好因子であり、MPC-1-(未熟骨髄腫)は新規治療薬でも予後不良因子であることを示しました(入山、栗原)。
2) レナリドマイド治療例では3か月後のリンパ球増加が予後に影響することを報告しました(中川)。
3) 骨髄腫における微小環境と臨床像、予後などの解析を行っています。
4) 実験研究では東京医大生化学教室との共同研究でcyclin-dependent kinase 4/6 inhibitorであるabemaciclibが骨髄腫細胞にオートファジーを誘導して抗腫瘍効果があることを報告しました(入山)。骨髄腫における抗SLAMF7抗体の作用機序も研究中です。

3.骨髄増殖性腫瘍

分子生物学的背景と臨床病態の解明を目指しています。順天堂大学などとの共同研究でJAK2V617変異陽性例では血小板数を下げてもvWF活性が高い症例があり循環障害の症状を起こしやすいことを見いだしました(投稿中)(飯塚)。

4.急性白血病

1) 成人白血病治療共同研究機構(JALSG)の多施設共同研究で治療の開発と病態の解明を行っています。とくに急性リンパ性白血病(ALL)では八田が全国の臨床研究の中心的役割を担っています。さらにフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)ALLについては日本医療研究開発機構(AMED)の八田班を組織してPh+ALLの治療の開発と病態の解明を目指しています。
2) 急性骨髄性白血病(AML)では144例のt(8;21)症例でCD56発現例の予後が悪いことを報告しました(入山)。
3) 実験研究ではALLで新規転座t(1;4)(p34;q31)を有する症例から新規融合遺伝子を見出し、その白血病発症機構を探索しています。この新規融合遺伝子によるシグナルを研究中ですが今後は細胞増殖、分化、アポトーシスなどの変化を検討し白血病発症の機序を解明していきます。
4) 既報では急性前骨髄球性白血病細胞株HT93A、NB4を用いて亜ヒ酸の作用機序、分化機構の解明を行いました(入山、内野)。レチノイン酸とビタミンDによるAML細胞の分化にはLynが関与していることを報告しました(入山)。また、生化学教室との共同研究でレチノイン酸とビタミンDによるAML細胞株THP-1、 HL60 のM2マクロファージへの分化誘導を報告した(髙橋)。ベンゾピレンとビタミンDはPAI-1発現と単球系への分化を誘導することも示しました(中川)。

5.慢性骨髄性白血病

1) 臨床研究ではJALSGおよびCML共同研究グループの多施設共同研究で入山が中心的役割を担っており、多数の臨床研究の立案と解析を行っています。EUTOS scoreによる予後の解析、第2世代チロシンキナーゼ阻害薬の効果などを報告しました。
2) 実験研究では第2世代チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)ダサチニブがpSTAT1, pSTAT3, pERKなどの発現を亢進させ、さらにNK細胞のperforin発現も亢進させることを示し、ダサチニブのCMLに対する抗腫瘍効果の機序の一つと考えられます(入山)。

6.造血幹細胞移植

造血幹細胞移植症例の臨床研究を行っています。
リンパ腫における自家移植の前処置(CEM)では合併症が少なく治療効果は既報に劣らないことを報告しました。T細胞リンパ腫の自家移植症例が比較的多く、その予後を解析しています。造血幹細胞移植症例における肺機能の研究を複数の論文に報告しています。
関東造血幹細胞移植共同研究グループ(KSGCT)に所属し複数の臨床研究(移植後のサイトメガロウイルス感染予防、TKIが使用されたPh+ALLの移植後予後因子解析、小児型プロトコール治療後に移植を行ったAYA世代Ph-ALLの骨髄破壊的前処置の検討、骨髄異形成症候群に対する移植の予後予測、DPP-4阻害薬のGVHDに与える影響など)に参画して移植成績の向上に努めています。

7.感染症

1) カルテック社との共同研究で開発した光触媒を用いた空気清浄機が新型コロナウイルスの除去に有効であり、さらに細菌感染症を予防できる可能性も示しました。
2) Arbekacin (ABK)が発熱性好中球減少症に有効であることを報告しました(三浦)。また薬剤部との共同研究で発熱性好中球減少症発症例でABKのクリアランスが悪いことを見いだしこれが発熱性好中球減少症の発症に一因である可能性を示した。
3) 血液疾患において1% chlorhexidine-alcohol 消毒がpovidone-iodine (イソジン)消毒に比べて中心静脈カテーテル関連血流感染を減らす効果があることを報告しました(髙橋、大竹)。

8.造血発生

大竹が山梨大学に国内留学し、赤芽球系の造血の新たな機序を解明しました。podoplanin 陽性間質細胞はその受容体であるC-type lectin-like receptor 2 (CLEC-2)刺激によりIGF-1を産生し赤芽球系の造血を刺激することを明らかにしました。